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「んー……」
早駈けした後の開放感からか、アイリーネはあまり深く考えずに表向きの理由をのんびりと口にした。
「背中にでっかい火傷の痕が残っちゃったからね」
驚いたようにフィンはアイリーネを見た。
「そんなことで……?」
そういうことになっているので、アイリーネは笑顔さえ浮かべて頷く。
「傷モノってことで」
フィンの表情が険しくなったところで、アイリーネはようやく自分の発言のまずさに気がついた。
「……キールト・ケリブレ、最低じゃね……?」
不穏なフィンの声に、アイリーネは慌てる。
「い、いや、復帰のための鍛錬にも協力してくれたし、いい友達だよ」
なんで自分が睨まれなきゃならないんだと思いながら、アイリーネは元婚約者を弁護した。
「ほ、本当にキールトのせいじゃないから。お互いに納得して決めたことだし」
フィンの眉間の皺がさらに深くなる。
「……こんなことになってもまだ庇うのかよ」
「な、何か誤解があると思う」
おたおたするアイリーネに向かって、フィンは語気を強めた。
「素直になっときゃ良かったんだ……。どうせ恰好つけて、やせ我慢したんだろ」
「え……」
「その煙水晶みたいな目をきらきら潤ませて、『捨てないで』ってすがりついたら、なんとかなったのかも知れないのに」
「な、何それ」
フィンは視線を逸らして正面に向き直ると、低い声で言った。
「……おまえは、本当にバカだ」
「な、なんでそこまで言われなきゃ――」
抗議しながら横を見たアイリーネは、はっと言葉を呑み込む。
どうしたことか、フィンは全身から怒りの炎が立ち上っているのが見えそうなほど激しく憤っていた。
「復帰なんかしないで騎士を辞めて、そのまま結婚しちまえば良かったんだ……!」
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