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祐樹はあれから私の話に相槌を打つばかりで、他のことを考えているようだった。猫に関わるな。飼育係は安全なところだけで活動しろ。これをミカに伝えるのは難しいことだ。過去に私は言われたことがないのだから。これをいうことで今度は右腕がなくなるかもしれないし、ようやく取れた内定がいつの間にかなくなっているかもしれない。祐樹に反対も肯定もされなかったこの案はどうにも実現性に欠ける。ソファーで寝っ転がり、手紙をぼーっと眺めても解決案は一向に降ってこなかった。
小一の十一月十九日、私の誕生日の前日。私は手紙と砂時計を「ミカ」から受け取った。手紙は二十になったら必ず読むようにと言われ、意味もわからないまま砂時計をひっくり返すように急かされた。頷いて砂時計をひっくり返すと「ミカ」もいなくなった。
「またね。ゆう……」
そう言っていたような気がする。最近は鏡を見るたびに「ミカ」に会っているから、「またね」という言葉もあながち間違いではない。「ミカ」は正確には私ではないけれど。「ゆう」の意味はいまだにわからない。何を伝えたかったのだろうか。
手紙はもらってすぐに開いたけれど、漢字も多く意味もわからず、小学校でタイムカプセルを埋めることになった時に一緒に埋めた。掘り返したのは成人式の後。二十になって読むようにと言った「ミカ」はこれも想定内だったのかもしれない。
その時私は砂時計を箱の中に忘れて帰った。後日祐樹がわざわざ届けに来てくれ、それが協力してくれるきっかけになったのだが、「ミカ」はこれも想定内だったのだろうか。
小一の私は「ミカ」のことを美香だとは知らず、不思議なお姉さんだと思っていた。友達だと思っていた。でも、ネタバラシされた今はとてもそうは思えない。お互いがお互いにとって生き延びるために必要な相手なのだ。どこかの世界の二十二歳の『ミカ』が小一のみかに会おうとしなければ、こんな面倒くさいことにはならなかったはずなのに。
「リリー、ミカの世界ってなんなんだろうね」
リリはパタンと尻尾をたおした。
平行世界の話や時空を超えて過去を変える話は物語世界に溢れていた。徐につけたテレビで偶然やっていた映画も、過去に起きた事件を食い止めようとする話だった。
一度リラックスしたほうがいいアイデアが浮かぶだろうと映画を見始めて、ふと思った。
なぜ主人公は過去が改変される前のままなのだろうか。普通過去が変わったら未来の主人公も同じように変わる。それなら過去の改変を行った主人公の記憶や人格も変わっていないとおかしい。
それは私に対しても言えることだ。ミカの小一の行動がそっくりそのまま私の小一の行動になるとしたら、私だって記憶を辿れば全てわかるはずなのだ。それなのに私が思い出す小一の記憶はしっかり私の行動のままで、お姉ちゃんは私ではなく「ミカ」だ。手紙や砂時計を引き継ぐタイミングで変化するのだとしたら話は別だが。
映画なんて見ていられなかった。考えれば考えるほど疑問は出てくる。
ミカって、美香って、「ミカ」って一体何なのだろう。
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