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次の日、取調室には山岸と平野の姿があった。こういう形で幼なじみと対面しなければならない事態を前に、山岸も複雑な表情を浮かべていた。
「この調書に署名をし、拇印を押して下さい」
平野は無言で頷いて署名をし、人差し指にスタンプのインクをつけた。目をかけてくれていた三塚が自分のせいで命を落としたという現実を前にして、平野は憔悴しきった面持ちをしていた。
取調室から玄関までの道のりは、静寂に包まれていた。お互いにとって話すべきことは多すぎるのに、話せることはなさすぎた。
「ではこれを調書としてあげさせてもらいます。ご協力ありがとうございました」
山岸はあくまで刑事の立場に徹しないといけないと自分自身に言い聞かせつつ、頭を下げて唇を噛んだ。
「ごめん……」
そう言い残す平野の背中に向かって、山岸は思わず叫んだ。
「謝る相手が違うぞ!2度と同じ間違いをするなよ!」
警察署を出て行く平野の後ろ姿は、小刻みに震えているように見えた。
【終】
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