フローザ.クロゥズ

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フローザ.クロゥズ

 目を開けるとそこは煌びやかな装飾の施された天井。周りには精巧に作られたドレッサーや棚。そう! ここは異世界! 「おはようございます。フローザお嬢様」  そして目の前には長いスカート丈のメイド服を着た18くらいの美人メイドさん。 「おはよう、アリス」  しかし私は慌てない。明らかに日本語ではない言語を使いこなして優雅に返事をし、メイドのアリスに促されるまま、着替えやヘアセットをしてもらう。慣れたものだ、なにしろ初めてこの現象が起きたあの日から13年経っているのだから。  今の私はサンライズ王国のクロゥズ伯爵家の長女、フローザ.クロゥズ。ウェーブのかかった見事なブロンズの髪、陶器のような肌、フランス人形のように整った顔立ちをもった絶世の美少女である。ちなみに年齢は私と一緒。  初めて私とフローザが入れ替わったのは、私達が3歳になった頃だ。朝起きると目の前には見知らぬ天井があり、知らない大人が知らない言語で話しかけてきて、まだ親に甘えた盛りの私はパニックを起こした。その日のことはそれ以外覚えてないんだけど、気づいたら自分の部屋に戻っていた。だから最初は夢かと思ったんだけど、テレビを見ると日付が1日飛んでいて、母親がすごい心配そうに私の方へ駆け寄ってきた。どうやら私は前日、訳のわからない言葉を叫びながら泣いて暴れまわっていたらしい。  その時は意味がわからなかったんだけど、それから毎週金曜日に私とフローザは入れ替わった。3歳の順応力は素晴らしいもので、私はこの入れ替わりに馴染み、サンライズ王国の言語も習得した。周りの大人たちは最初は大分焦っていて、しょっちゅう病院に連れてかれていたんだけど、いつのまにか毎週金曜日に様子がおかしくなる子供に慣れていった。  私が小学一年生になり、フローザに家庭教師が着くようになった頃から、私たちは記憶が共有されるようになった。入れ替わった日に起こったこと、入れ替わってない他の日に起こったことが、目が覚めた時に頭の中に入るようになった。それは、最初は断片的で、朧気なものだったんだけど、だんだん全体的な、はっきりしたものになっていった。それがなかったら、学校の勉強でつまづいていただろうから、大分ご都合的と言える。  サンライズ王国は異世界転生お馴染みの魔法のある世界だったから、私は魔法の勉強にのめり込んでいった。それはフローザも同じで、フローザはサンライズ王国にはない、発達した化学や地学の勉強にのめり込んだ。前述した通り、その頃から記憶が共有されるようになったので、お互いが夢中になって身につけた知識や技術はそのまま。つまり、私は化学や地学が、フローザは魔法がよくできる優秀な子供に育っていった。  あと、これは私だけなんだけど、この入れ替わりは外国語にも役に立った。サンライズ王国の言葉の文法や単語は英語とよく似ていたから、私は英語が得意だった。ただ、発音が微妙に違うせいでALTの先生に、「変な訛り方してるね」って言われたり、サンライズ王国の言葉に引っ張られて、テストで変なスペルミスしたりしたんだけどね。  そんなこんなで、私たちは、日本とサンライズ王国の2つの世界で、チート人生を送ってきた。  でも、たまに不安になる。もしも、日本に戻れなかったらどうしよう、フローザとして生きることになったらどうしようって。3歳の頃から毎週過ごしてるから、サンライズ王国にはかなり愛着はあるけど、私はそれよりも母国のご飯と味噌汁が好きなのだ。  あと、たまに想像してゾッとするのが、もしも私たちの記憶の共有が3歳の頃からあったら、私たちはお互いどっちがどっちかわからなくなっていたんじゃないかって。  今は、起こった出来事だけを共有している私たちだけど、もしもそれが思考や感情の共有にまで至ったら、私は花衣でいつづけられるのだろうかって。  そうそう、私たちは寝る前に日記を書くことで交換日記してるんだけど、それによるとフローザは、婚約者のイーグル君が陰気で気に入らないらしい。私は結構気に入ってるんだけどね、モジモジしてて可愛らしいから。  
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