右手が失くなった

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結果論だけど、僕はこれで良かったと思ってる。 彼女はあれ以来、家から出ない。 義手は特注したけど、外に出ればどうしても好奇の目に晒される。それに何より、誰かに感染する可能性を否定できない以上、優しい彼女は、リスクのあることはできない。 僕に対してだって、初めの頃はことある毎に別れ話をしようとしたり、恋人同士の触れあいをやんわりかわそうとしてきたりしていた。だけど、一回も成功させなかった。愛のちから、ってやつかな。 今では、彼女が頼るのも、心を許すのも僕だけ。当然だよね。だって、彼女のそばには僕しかいない。まぁ、僕がいればそれでいいんだけど。本当はオンラインでの仕事も辞めてほしいぐらいだけど、そこには目をつぶってる。相手は子どもだしね。 これは結構嬉しいことだった。 右手のある頃の彼女は人気者で、休日に友達と出掛けることも多くて、一緒に住んでいるのになかなか独占できなかった。 当然男にもモテていて、職場恋愛だから周りには僕達の関係を秘密にしていたのもあって、いつも気が気じゃなかった。 彼女は浮気なんてする人じゃないけど、心変わりされたらどうしようもない。けど、そんなの僕は許せないし、認められない。 でも、今、彼女は僕だけのもの。 願いが叶ったんだ。ずっと願ってた。『彼女が僕だけのものになりますように』って。 神様が、僕の願いを叶えてくれた。日頃の行いが良かったのかな。人にはなるべく親切にしてきたし、僕はずっと彼女に一途だし。 だから、僕の次の願いも、もうすぐ叶うかもしれない。 実は僕、結構怒っているんだ。 彼女は優しくて面倒見がよく、その上可愛いくて、非の打ち所のない完璧な女性だ。まぁ、周りみんなに優しくしているのはそんなに面白くなかったけど、彼女の美点なのは間違いない。彼女は間違いなく周りに慕われていた。 なのに、彼女の右手があんなになっただけで、大体の人は彼女から距離を置くようになった。まぁ、それは僕が彼女の携帯を操作しているってのもあるから仕方ないけど、彼女におぞましいものを見る目や好奇の目を向ける人が圧倒的だったのは間違いない。 その中には、右手があった頃の彼女に大変世話になった奴もいて、本当に薄情だと腹が立った。彼女の教え子たちだってそうだ。どれだけ彼女に面倒見て貰っていたんだ。 だから、僕は願っているんだ。 そんな奴らがみんな彼女と同じ...なのは、彼女が感染源だと言われると傷付くから駄目だけど、何かしら奴らの人生を下降させる目に遭えばいいって。 これは彼女の願いでもある。僕はちゃんと覚えてる。彼女はそんな奴らを『末代まで呪ってやりたい』って言ってた。冗談って言ってたけど、あれは本気だ。彼女には少しだけ過激なところがあって、そこもまた魅力的なんだ。僕は彼女の願いは、できるだけ叶えてあげたい。 まぁ、僕には願うことしかできないけど。 それでも、叶うかもしれない。僕は日頃の行いも良いし、彼女だけに一途だから。
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