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二十一時頃に帰宅した志乃を玄関で出迎え、いつものようにキスを交わす。
左手の薬指に収まるエンゲージリングを目にし、荒んでいた心が優しい温もりに包まれた。
「夏さんにすぐに気づかれて、質問攻めにされちゃった」
俺の視線に気づいた彼女が、困り顔で微笑む。きっと、顔を真っ赤にして困惑したんだろうと思うと、その姿が見られなかったことが残念でたまらなかった。
「でも、たくさん『おめでとう』って言ってもらったよ。指輪はダイヤが大きいからさすがに仕事中はつけられないけど、帰ってくるまでに何度も見ちゃった」
面映ゆそうだった志乃が、俺を見上げて破顔する。
可愛くて、愛おしくて、どんなものにも代えがたい存在。自分の中にこんな感情があったのかと思うほど、彼女といると甘ったるいことばかり考えてしまう。
けれど、喜びで満たされた心は幸福感に包まれ、この上ない至福を抱いていた。
きっとこの先、俺たちは喧嘩をしたりすれ違ったりすることもあるだろう。残念だが、人生は幸せや喜びばかりの日々ではできていない。
だからこそ、今ある幸福がいっそう愛おしく思えるのかもしれない。
「翔?」
「ああ、ごめん。少し考え事してた」
「疲れてるんじゃない? 私もちょっと眠いし、今夜は早めに寝よう?」
「ああ。でもそれは、志乃を抱いてからね」
「……っ」
途端に頬を染めた志乃に目を細め、今夜はどんな風に彼女を愛そうかと思いを巡らせる。ひとまず、本能のままに柔らかな唇にそっとくちづけた。
俺の心の中にある香月志乃への初恋と恋心は、この先もずっと色褪せることはないだろう――。
【END】
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*Date*
2021,06,15 執筆開始
2021,08,15 執筆完了
2021,08,28 エブリスタ本編公開
2021,09,04 エブリスタ全編公開
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