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「諏訪くんのことも、諏訪くんと暮らすのが嫌になったなんてこともないよ。たくさん助けてもらったんだもん。恩は感じても、そんな風に思ったことは一度もない」
「それなら、なおさらわからないんだけど」
「私、諏訪くんに頼ってばかりだし、さすがにそろそろ自分でどうにかしなきゃって思ったの。仕事ではこれからもお世話になってしまうけど、それとは別にちゃんとけじめをつけないといけないなって」
「そんなことない。俺だって、香月に助けてもらってるよ」
きっと、諏訪くんは食事のことを言っているんだろう。
もちろん、できる範囲で頑張ってきたけれど、私が彼にしてもらっていることに比べれば料理くらいたやすい。それに、外食するときはご馳走してもらっている。
「ギブアンドテイク、持ち持たれつでやっていけてると思わない?」
どう考えても、ギブアンドテイクにはなっていない。それを言葉にはしなかったものの、苦笑を漏らしてかぶりを振ることでしっかりと態度に出した。
「それに、異性同士の友人がずっと一緒に住んでるのも変だと思うし、普通に考えて私がここにいると諏訪くんの迷惑になるもん。諏訪くんは優しいから否定してくれるかもしれないけど、私がいることで我慢してることもあるんじゃないかな」
ほんの一瞬だけ、諏訪くんの面持ちが強張った。
それはきっと、よく注意していなければ気づかないほどささやかなもので。私だって、彼と過ごした三ヶ月がなければ見落としていたかもしれない。
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