8037人が本棚に入れています
本棚に追加
「香月が俺を意識してないことはわかってたけど、どうにかして距離を縮めたかったし、男が苦手でも俺への警戒心だけは持たせたくなくて必死に友達のふりをした」
ただ、信じられない気持ちの方が大きくて、思考は収拾がつかないほどに取っ散らかっている。誰かこの状況を説明して、なんて思うくらいだ。
「でも、香月が俺にだけは触れられても平気だって言ってくれたとき、もうどんな手を使ってでも絶対に手に入れたいと思った」
怒涛の勢いで想いを打ち明けられて、いっそ夢かと思った。
「だから、適当な理由付けで香月を言い包めて、触れ合う方法を提案した。まぁ、男に慣れるように……なんていうのもその場限りの建前で、本心では俺以外の男に触らせる気はなかったけど」
そんないっぱいいっぱいの私の脳裏に過ったのは、諏訪くんが提案したリハビリと称した〝練習〟。それすらも、彼には別の意図があったなんて考えもしなかった。
「ほらな? 狡猾で最低だろ?」
自嘲混じりの笑みを浮かべる諏訪くんを見つめ、あまり役に立ちそうにない頭を必死に働かせる。
驚いたし、戸惑っているし、半信半疑どころか半分以上は信じられない。
ただ、それでもやっぱり彼を最低だとは思わなかった。
「ううん、そんなことない」
どんな理由があったにせよ、諏訪くんは絶対に私が嫌がることはしなかったし、いつだって私を気遣い、私のペースに合わせてくれていた。
なにより、一度も私を怖がらせるようなことはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!