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Bloom 8 恋は盲目でも、
夏の暑さを忘れ始めた九月下旬の、優しい日差しが舞い込む土曜日の午後。
諏訪くんと付き合うことになってから、一週間が経った。まさか両想いだったなんて夢にも思わなくて、私の事情を理解した上で私たちのペースで進んでいこうと言ってくれた彼には感謝しかない。
おかげで、あまり身構えることなく、諏訪くんと付き合っていけるかもしれない。
「志乃」
なんて思っていたのは、初日だけ。
背後に感じた気配に心の準備をする暇もなく、キッチンで包丁を握る私の後ろから骨張った手が伸びてきた。
私の体にギリギリ触れない位置で、けれどまるで逃がさないとでも言いたげに、全身がすっぽりと諏訪くんの腕の中に収められてしまう。カウンターに手をつく彼は、そのまま私の顔を覗き込むようにしてきた。
背中に感じる諏訪くんの呼吸も体温も、私の心を乱していく。
「なにか手伝うことはある? 俺も一緒に作りたい」
ここで動揺してはいけない、と必死に平常心を保とうとする私に反し、彼の声音は至って平素のものだった。
「だっ……だいじょうぶ、です……」
ちっとも平静ではいられない私に、後ろにいる諏訪くんがクスリと笑う。ひとつに緩く結んだ髪のせいで無防備だったうなじに、どこか甘さを孕んだ吐息が触れる。
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