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「晩ご飯はどうする? どこかで食べて帰る?」
「諏訪くんの家ってホットプレートとかある?」
「結婚式の二次会で当たったのがあるけど、使ったことはないな」
「じゃあ、お好み焼きでもしない? あ、タコ焼きもいいかも」
「いいな、それ。材料を買って帰ろう」
地下に下りると、生鮮食品からスイーツ店が軒を連ねるフロアにはたくさんのお客さんがいた。混み合う時間帯とはいえ、夕方のデパ地下の人出は侮れない。
「俺の服、どっか掴んでいいよ」
すると、隣にいた諏訪くんが私を見て微笑み、シャツの裾あたりを指差した。
彼を見上げ、再びシャツに視線を戻す。それを二度ほど繰り返したあと、おずおずと伸ばした右手で大きな左手にそっと触れた。
「……こっちじゃダメ、かな?」
「あ……い、いや……」
諏訪くんの様子を窺うように視線を上げれば、彼は明らかにたじろぎ、動揺をあらわにしていた。
ほんの数秒前の私は、緊張でいっぱいだった。それなのに、予想だにしなかった諏訪くんの反応に肩の力がわずかに抜け、ふっと瞳が緩む。
胸の奥でじんわりとした感覚が広がり、鼓動を高鳴らせる心臓のあたりが柔らかな温もりで包み込まれる。
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