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ふと、彼のことが好きだな……と感じ、同時にこれが愛おしさだと気づいた。
ドキドキするのに、戸惑う諏訪くんの姿を見ていると幸せで。私の小さな一歩を受け取ってくれることが嬉しくて、それでいて心が温かくなる。
いくつもの感覚が混ざり合って芽生えた〝愛おしい〟という感情が、私を大きく満たしていった。
「志乃には、ときどき驚かされるよ」
「私は毎日驚かされてるよ」
諏訪くんのギリギリのスキンシップのことを暗に言えば、「敵わないな」と困り顔になった彼が笑う。どこか複雑そうなのに、その面持ちには喜びが覗いていた。
(諏訪くんのこういうところ、本当にずるいなぁ)
程なくして、私の手を引いた諏訪くんがゆっくりと歩き出す。早くも平素の冷静な態度に戻った彼は、さっきの動揺を懐柔したようだった。
自ら仕掛けた私は、早鐘を打つ心臓を諫められずにいるというのに……。やっぱり、諏訪くんには敵いそうもない。
そんな風に考える思考に過った悔しさとは裏腹に、人混みで繫いだ彼の手から伝わってくる体温に幸福感を抱いていた――。
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