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翌週、会社でパソコンに向かっていた私は、ふと手を止めた。
「木野さん、このデータなんですけど、ちょっとわかりにくくて……。この集計、過去のものも一覧にして見れるものってないですか?」
既存のアプリの開発費が纏められたデータを開いたパソコンを指差せば、木野さんが眉を下げて笑った。
「あるにはあるんだけど、あんまり見やすくないのよ。いずれ一覧にしたいと思ってるんだけど、うちができてからの六年分のデータだからちょっと大変だし」
このデータは一見すればわかりやすく思えるけれど、会社名ごとに並べられていて日付や費用の大小がわかりづらい。これでも大きな問題はないものの、日付や費用によっても整理されたものを確認できれば、もっと効率よく業務を進められるはずだ。
「これ、私が作り直してもいいですか? 入力作業だけですし」
「……そうね。ついでに過去にうちが手掛けた仕事も確認できるし、やってみる?」
許可をもらった私は、早速パソコンに向き直って取り掛かった。簡単な業務だけれど、初めてすべてひとりで任された。それが嬉しくて、張り切ってしまう。
「あ、社長。おかえりなさい」
その数分後、男性社員の声にハッとして顔を上げると、篠原さんとともに出先から戻った諏訪くんの姿が目に入った。
「どうでした?」
「まずまずってところかな。あとで修正箇所を送るからチェックしておいて」
ふたりの会話が勝手に耳に入ってくる。彼と付き合ってからは特に、その声を拾うのが上手くなった。
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