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ムラノ工業は、主にエアコンなどに使用する部品を取り扱っている会社だ。付き合いはまだ二年ほどで、工場の製造ラインの情報システムをうちが構築したはず。
「でも、あれは急激な負荷が原因だったので、復旧作業だけで問題なかったですし、その件についても説明してますが……」
「そうだとしても、半月も経たずにこうなったんじゃ――」
「タケ! 俺、ちょっと行ってくる」
「えっ⁉ なんでお前が⁉ 翔は他の業務があるだろ! 行くなら俺が――」
「いいって。こういうときは社長が出ていった方が丸く収まるし」
慌ただしくやってきた諏訪くんの後ろから、篠原さんもついてきている。ふたりを見て、鵜崎副社長が眉を顰めた。
「でも、お前は先週も他の取引先の対応に出てただろ」
「あっちもちゃんとやるし、村野社長なら俺が対応した方が納得してくれるよ」
諏訪くんはさらっと言い切り、児嶋さんに「児嶋くんも一緒に来れる?」と尋ねた。青い顔で外出準備を始めた児嶋さんに、諏訪くんが「大丈夫だから」と声をかけている。
副社長は諦めたように息を吐き、慌ただしく出ていった三人の背中を見送った。
「大丈夫かしら。村野社長は気難しい方だし」
ぽつりと呟いた木野さんを見ると、眉を寄せている。
私が気を揉まなくても、諏訪くんなら上手く乗り切るだろう。そう思う反面、彼がなにかつらい目に遭わないかと不安になる。
けれど、私には無事にトラブルが解決するのを祈ることしかできなかった。
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