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諏訪くんが帰宅したのは、翌朝の六時前だった。
昨夜のうちに【遅くなるから寝てて】と連絡をくれていたものの、まさか朝になるまで帰宅しないとは思っていなかった。
「おかえりなさい」
部屋から出てリビングに行くと、「ただいま」と疲労混じりの笑みを返された。
「ごめん、起こしちゃったか」
「ううん、目が覚めてたから」
本当は彼が心配で眠れなかっただけ。けれど、それを口にすると気を遣わせてしまうとわかっているから、笑顔で「お疲れ様」と労った。
「少しでも眠る?」
「いや、仮眠を取ると起きれない気がするから、シャワーだけ浴びて出るよ。今日は金曜だし、帰ってからゆっくり過ごす」
腕時計を外した諏訪くんは、バスルームに向かった。その背中を見送ったあとでキッチンに行き、食欲がなかったとしても少しでもなにか口にしてほしくて鍋を出した。
こういうとき、無力だと思う。私にできるのは食事を出すことくらいで、彼の仕事を手伝うことも気の利いた言葉もかけられない。
「なんかいい匂いがする」
落ち込みかけていると、タオルで髪を拭きながらキッチンに顔を出した諏訪くんが気が緩んだような微笑を零した。
「卵雑炊を作ったの。食べられるかな?」
「ん、サンキュ。あんまり食べる気分じゃなかったけど、お腹空いてきたかも」
嬉しそうに瞳をたわませた彼は、私の頭をポンと撫でてからソファに行き、息を吐きながら腰を下ろした。
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