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「ほら、志乃も座りなよ! 諏訪くんは志乃の隣に座って」
「ああ」
テキパキと席順を決めていく敦子は、私に笑みを向けた。
高校時代の淡い恋。私の想いを知っていたのは、彼女だけだ。
深い意味はないと思う反面、隣に座るように言われて戸惑った。
「香月、座らないの?」
「あ、ううん……。えっと、座るよ」
椅子を引いてくれた諏訪くんに、どぎまぎしながらも微笑んで見せる。
肩が触れるほど近いわけじゃない。それでも、下手に動けばきっと体のどこかが当たってしまう。
そう思うと、石のように動けなくなった。
「なに飲む? アルコールは平気?」
そんな私の目の前に、彼がメニューを広げて見せてくれる。小さく頷けば、ふわりと微笑まれた。
胸がきゅうっ……と締めつけられる。
あの頃よりもずっと大人になった諏訪くんの笑顔に、まるで心が捕らわれる気がした。
もう恋心はないはずなのに、私の唯一の恋だったせいか、どうしたって平静を装えない。
彼の隣にいると、心臓が持たないんじゃないと思うくらいだった。
(こんなことなら、もっとちゃんとヘアセットすればよかった……。服も変じゃないかな? どこかおかしかったりしないよね……?)
ひとり動揺でいっぱいの私を余所に、いつもの女子会とは違う飲み会が始まった。
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