8041人が本棚に入れています
本棚に追加
一度シャンプーを洗い流し、再びよく泡立てて丁寧に洗う。指の腹で頭皮を揉むように、けれど力を入れすぎないように。
「かゆいところはございませんか?」
「……うん。でも寝そうだ……」
「いいよ、寝ても。終わったら起こしてあげるから」
「もったいないからやだ」
どこか子どもっぽくなった口調に、ふふっと笑ってしまう。なんだか可愛くて、心がくすぐられる。
「トリートメントもするね」
ところが、しばらくして声をかけると、諏訪くんからの返事はなかった。どうやら微睡み始めたようで、呼吸音が寝息に変わっていく。
起こさないように静かにトリートメントを手に出し、優しく揉み込んでいったあとで、じっくりと頭皮をマッサージした。
私が働いていたサロンのヘッドスパは、一番人気のアロマスパを始め、クレイスパなどがあり、どれも三十分以上のコースから承っていた。一番長いもので四十五分。
ただ、サロンのようなチェアを使用していないため、同じ時間だけするとあとで首や腰が痛むかもしれない。それを懸念し、二十分ほどで終わらせた。
話しかけるのは可哀想だけれど、このままというわけにはいかない。規則的な寝息を立てる彼の唇を見ながら、控えめに「諏訪くん」と呼んだ。
最初のコメントを投稿しよう!