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「髪まで乾かしてもらって、至れり尽くせりだったな。ありがとう」
「ううん。少しは解れたかな?」
「うん。首とか肩もマッサージしてくれたから、頭がすっきりした。心なしか、視界もクリアな感じがする。本当に気持ちよかったよ」
実のところ、いくら諏訪くんが相手でも上手くできるか不安だった。
美容師を辞める前から仕事ができなくなっていた私には、半年以上のブランクがある。技術面への不安はもちろん、彼を相手にフラッシュバックでもしたら、もうこの先ずっと美容師には戻れない気がして不安だった。
すべてが杞憂に終わったことに胸を撫で下ろす。
諏訪くんの傍にいたい気持ちやトラウマから、今の仕事を続けたいと思っていたのに……。こうして安堵するということは、やっぱり美容師に戻りたいんだろう。
なによりも、喜んでくれた彼を見ていると、私は美容師という仕事が好きだったんだと明確に思い出せた。
「志乃と同じシャンプーの匂いがするっていいな」
破顔した諏訪くんは、私の髪を一束取って指先でクルクルと弄んだ。直接肌に触れられているわけじゃないのに、なんだかくすぐったい。
さっき変な想像をしていたせいか、妙にドキドキさせられた。
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