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「志乃」
「はい……」
緊張を隠せなかった私に、「なんで敬語?」と彼がクスクスと笑う。楽しげで幸せそうな表情に、胸の奥がキュンと戦慄いた。
「キス、してもいい?」
予想だにしていなかった言葉に固まってしまう。その意味を理解するまでに時間を要し、しばらくして状況を把握したときには頬が熱くなっていた。
諏訪くんはきっと、私がわずかでも拒絶の姿勢を見せれば、絶対に無理強いはしない。彼なら間違いなく、笑顔で『無理しなくていいよ』と言ってくれる。
(でも、私……)
何度も想像した、諏訪くんとのキス。脳内シミュレーションではいつも、不安や恐怖を感じることはなく、ドキドキしていた。
触れたい。
そう感じるようになったのはいつだっただろう。わからないけれど、最近はそう思うようになっていた。
だから、上手く言葉にできない想いに背中を押されるように、恥じらいを隠せないまま小さく頷いた。
刹那、彼が穏やかに瞳を緩め、首を縦に振った。
伸びてきた骨ばった手が、そっと頬に触れる。何度もリハビリをした中で、こんなにも緊張したことはなかったかもしれないけれど、不安や恐怖はなかった。
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