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端正な顔が近づいてきたのは、その一秒後のこと。真っ直ぐな瞳が私を捉え、至近距離に見えた諏訪くんの顔がぼやけた直後、お互いの唇が静かに重なった。
労わるように大切に、それでいてしっかりと触れていることがわかる強さで。強引さはないけれど控えめでもなく、緊張でいっぱいで息ができなかった。
甘切なさが孕んだようなキス。
閉じた瞼の裏で、あの頃に叶わなかった初恋が鮮やかに色づいて綻んでいく。胸の奥からは喜びが突き上げてきた。
ゆっくりと顔が離れておずおずと瞼を開ければ、優しい笑顔が私を見つめていた。
「好きだよ、志乃」
「……うん。私も……諏訪くんがすごく好き」
胸を突き破りそうな心臓がうるさくて、呼吸が上手くできなくて。動揺と緊張でいっぱいいっぱいなのに、心は幸福感で満たされていく。
「あー、やばいな。もっとキスしたくなった」
「……っ」
ほのかに頬を赤らめた諏訪くんの、真っ直ぐな視線。逃げられないと悟って息を呑みながら、逃げたくないと感じている私がいることに気づく。
それを声にするのは恥ずかしくて、縋るように彼を見つめ返しながら大きな手をギュッと握った。
直後、再び唇が触れ合った。
そのまま何度も唇が重ねられ、十月の静かな夜の中で甘く優しいキスを繰り返した――。
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