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Bloom 9 雲となり雨となるとき
「本当に買っちゃったの?」
「うん。ダイニングチェアだと思う存分くつろげないから」
十一月も終わる、土曜日の昼下がり。諏訪くんの家に届いたものを見て目を丸くする私に、彼はなんでもないことのように笑った。
「だからって、オーダーメイドなんて」
「しっくりくるものがなかったし、欲しかったからいいんだ。畳める設計にしてもらったから邪魔にならないし、別に他の部屋で使ってもいいし」
あの日を機に、毎週末ヘッドスパをしてあげるようになった。
諏訪くんが喜んでくれて嬉しいし、私にとっても練習になる。彼になにかしてあげたいということもあり、一石三鳥だと思っていたけれど、まさかオーダーメイドで専用のチェアを買うとは思っていなかった。
「そりゃあ、諏訪くんの家は広いから、置く場所には困らないだろうけど……」
「だからって志乃にずっとヘッドスパをしてもらうつもりはないし、負担に感じる必要はないよ。それよりさ、その『諏訪くんの家』って言うの、そろそろやめない?」
「え?」
「俺としてはもう付き合ってるんだし、同居じゃなくて同棲の感覚なんだ。でも、志乃はいつも『諏訪くんの家』って言い方するから寂しいんだけど」
拗ねたような表情で私を見る諏訪くんに、単純な鼓動が高鳴る。こういう顔をするときの彼は、なんだか可愛くてずるい。
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