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「でも……私は家賃だって払ってないし……」
「恋人からそんなもの取る気はないし、俺が志乃と一緒にいたいからいいんだよ。だいたい、志乃は毎日おいしいご飯を作ってくれるし、俺を思いやってくれるだろ」
それで充分だ、なんて言う諏訪くんは、本当に私にはもったいないくらい優しくて素敵な人だ。自分のことを触れ回るには苦手なのに、彼とのことだけはみんなに自慢したくなる。
もっとも、会社でも付き合っていることは打ち明けていないけれど。
「諏訪くんって、すごく甘やかしてくれるよね」
「志乃だけだよ」
言い終わると同時に、唇にふわりとくちづけられた。不意を突かれたキスはもう数え切れないほどされているのに、未だにたじろいでしまう。
そのたびに柔和な笑みを浮かべる諏訪くんを見ると、幸せだなぁ……なんて絆されたような気持ちになるのだ。
「せっかくだし、この椅子使ってみない? 新しいアロマオイルを買ったから、リクエストがあればブレンドするよ」
「志乃に任せる。俺、志乃がブレンドしてくれるやつが好きなんだ」
そんな風に言われるほど、大したことはしていない。
暖かい日や疲労がたまっていそうなときはミント系ですっきり……とか、寒くなってきたから甘めの柑橘系やラベンダーで……というくらいだ。けれど、彼は毎回ブレンドやヘッドスパの技術を褒めてくれる。
それが嬉しくて、美容師への未練が日に日に膨らんでいた――。
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