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第三者からそんな風に言われると、諏訪くん本人の口から想いを聞くよりも照れくさい。それでも嬉しくて、こらえ切れずに笑みを零してしまう。
「志乃、すごく可愛くなったね。もともと可愛いけど、愛されて満たされてるっていうか、笑顔が増えたし纏う空気が柔らかくなった。それに、すごく明るくなった」
「そ、そうかな……」
素直に受け取るのは恥ずかしいけれど、敦子があまりに穏やかな微笑を浮かべるものだから、否定しづらくなって苦笑が漏れる。
「うん。いい恋ができてよかったね」
真っ直ぐな視線を受け止め、向けられた笑顔に同じ表情を返す。大きく頷けば、彼女は顔に安堵と喜びを混じらせた。
「ところで、もうキスくらいした?」
「……っ! ちょっと、こんなところでなに言ってるの!」
「あ、その反応はしたんだ。わかりやすいなぁ」
突然のことに平静を装う暇もなく、敦子に見透かされたことにさらに動揺する。慌てふためく私に、彼女がふっと瞳を緩めた。
「よかったじゃない。正直、美容師を辞めた頃の志乃はコンビニですれ違う男性にも体を強張らせてたし、うちを出たときは心配だったけど、愛の力は偉大だね」
「あ、愛って……」
「なにか間違ってる?」
自信に満ちた面持ちの敦子に、首を横に振る。
なにも間違っていない。諏訪くんの愛情が私を癒し、トラウマの中にいた私を救い出してくれたのだから。
「もう大丈夫そうだね」
トラウマと言っても、私はきっとまだ軽い方だった。そして、彼のおかげで少しずつ立ち直り、今は心から笑えている。
それをわかっているからこそ、迷うことなく首を縦に振った。
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