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帰宅すると、ジムに行くと言っていた諏訪くんが先に帰っていた。
「結婚祝い、喜んでくれてたよ」
「ああ、さっき赤塚……じゃなくて清水からお礼のメッセージがきたよ」
「そっか。っていうか、赤塚のままでいいんじゃない?」
「まぁそうだな」
ふと、ソファを見ると私が好きな作家の文庫本が置いてあり、私の視線に気づいた彼が微笑んだ。
「昨日、志乃がおすすめしてくれただろ? ジムの帰りに本屋で買って、帰ってきてからずっと夢中で読んでた。もう少しで読み終わるところだ」
「じゃあ、水を差しちゃったね。邪魔してごめんね」
「そんなことない。志乃が最優先事項だよ」
私の目を真っ直ぐ見て微笑む諏訪くんに、胸の奥がキュンと震える。まだ夕日が街を染める時間帯だというのに、昼夜を問わない彼の甘さは今日も変わらない。
「諏訪くんって、恥ずかしげもなくそういうこと言えちゃうよね」
「だって、志乃にもっと俺を好きになってほしいからな」
「……っ」
「付き合ってても、まだまだ俺の想いの方が大きい。だから、志乃がもっと俺に夢中になってくれるように必死なんだ」
私の頬に手を添えた諏訪くんが、甘い笑みで私を見つめてくる。けれど、その中には鋭く光るものが見え隠れしていた。
キスの予感に瞼を閉じれば、数瞬して唇が塞がれた。触れるだけの優しいくちづけに、私の中で幸福感が広がっていく。
だからこそ、唇が離れると寂しくなって、遠のいた温もりに追い縋るように彼を見上げた。
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