Bloom 9 雲となり雨となるとき

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* * * それからというもの、私の日常が少しだけ変わった。 諏訪くん――もとい翔は、これまでスキンシップできなかった日々を挽回するかのごとく、毎晩と言ってもいいほど私を自身のベッドに招き入れるようになった。 あれこれ理由をつけてみても当然承諾されるはずもなく、夜毎彼に抱かれていた。 疲れているときや遅くなった夜には、ただ抱きしめられて眠るだけの日もあるけれど……。とにもかくにも、ここ最近の私は意識を失うように眠りに就く寸前に翔におやすみのキスを与えられ、朝も彼の優しいくちづけで目を覚ますのだった。 なんだか面映ゆくて、毎日がくすぐったいような幸福で彩られている。これほどの幸せで満たされている今、不満なんてひとつもない。 ただ、このままエスユーイノベーションで働いていいのか……とは頻繁に考えるようになった。 美容師への未練は、以前よりもさらに強まっている。 週末の恒例になっている翔へのヘッドスパで喜んでもらえることが嬉しくて、同時に美容師時代のお客様たちとのやり取りをよく思い出すようになった。 お客様の要望を汲み取るのも、流行を追い続けるのも、その上で似合うヘアスタイルを提供するのも、とても難しくて大変だった。 ときにはクレームを受け、指名替えも複数回され、施術後にお客様に不満そうな顔をさせてしまったこともある。そのたびに落ち込み、美容師に向いていないのかもしれないとへこたれそうになり、悔しさを抱えて数え切れないほど泣いた。
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