Bloom 9 雲となり雨となるとき

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けれど、お客様が喜んでくれるとつらいことが全部消化されるくらい嬉しくて、また頑張ろうと思えた。セクハラやパワハラがつらくても、負けたくなかった。 いつか、小さくても自分のお店を持つために。 そして今も、本当はまだその夢を捨て切れずにいる。 そんな状態でエスユーイノベーションで働き続けることになれば、真摯に仕事に取り組む翔に後ろめたい気持ちを抱きそうだった。努力している彼や同僚たちを余所に、私だけ優しい場所で守られているのはずるい。 なにより、翔と付き合っているからこそ、彼に甘えてばかりではいけない。 甘えるのは悪いことじゃないと翔が教えてくれたけれど、今の私は彼の傍にいたくて過去から目を背けているだけ。 だから、余計にこんな気持ちになってしまうのだ。 (私はどうしたいんだろう……) 翔には触れられても平気になったどころか、彼に抱かれるたびに幸福感が募っていく。異性であっても、同僚とは随分と普通に接することができるようになった。 (でも、美容師に戻ったら? 同じ店で働くことはなくても、また同じような目に遭うかもしれない……。それでも頑張れる?) 堂々巡りの中にいると息が苦しいけれど、それでも私自身が向き合って答えを出さなければ、きっと本当の意味で翔の隣で胸を張ることはできない。 彼の傍で恥ずかしくない生き方をしたいと思うのなら、私は過去とも自分自身とも向き合わなければいけないのだから。 ちゃんと考えよう、と心に誓う。 これまでは考えているようでいて、結局は心のどこかで優しい場所で過ごすラクさに甘んじ、現状維持を望んでいた部分があった。 それでいいはずがない。 だから、ちゃんと目を背けずにいよう。
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