Bloom 9 雲となり雨となるとき

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カラフルな街並みを横目に、目的地へと急ぐ。 道行く人たちはみんなどこか楽しそうで、冬の凛とした空気に頬を撫でられる私の足取りも普段よりも軽かった。 今日はクリスマスイヴ。金曜日ということもあり、街は恋人たちで溢れている。 待ち合わせ場所に着くと、今日は午後から外出していた翔が先に待っていた。 「ごめんね、待たせちゃった?」 「俺も今着いたとこ。ちょうどいい時間だし、中に入ろうか」 彼が予約してくれていたのは、銀座の一角にある格式高いレストランだ。 白亜を基調とした建物は二階建てで、ヨーロッパの城を思わせるような大きな支柱が目立つ。フランス国旗が冬の夜風になびいていた。 有名店だけあって、私でも名前くらいは知っている。まさかこんなところに来られるとは思っていなかったけれど、気後れする気持ちと喜びが同居していた。 「あの……私の服装、おかしくない?」 ラベンダーを明るくしたようなカラーのワンピースは、今日のために買ったものだ。 上半身はシフォン素材の五分丈袖で柔らかい雰囲気を演出してくれるのに反し、スカートは大ぶりの花のレースで作られている。ウエスト部分にはベルト代わりのパールが施され、『結婚式でも使えますよ』という店員さんの言葉に背中を押された。 髪はサイドを編み込んで纏め上げ、私なりに精一杯おしゃれしてきた。 けれど、三つ揃えのネイビー系のスーツを身に纏った彼の隣に立つと、なんだか釣り合っていると思えない。
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