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「志乃がいてくれたらなにもいらないっていうのも本音だけど、志乃が俺のために選んでくれたプレゼントって、想像よりずっと嬉しいな」
面映ゆそうな表情が、私の心をくすぐる。まだ中を見てもいないうちからそんなに喜ばれて、少しだけ緊張してしまった。
「好みじゃなかったらごめんね?」
「志乃がくれるものなら、俺はなんでも嬉しいよ」
私が張った予防線を、翔は一瞬で断ち切ってしまう。そんな風に言われれば、もう不安は吹き飛んでいた。
私が選んだのは、彼が愛用しているブランドの名刺入れ。ラグジュアリーなお店に入るのも勇気が必要で、洗練されたコンシェルジュを前に緊張でいっぱいだった。
けれど、翔が新しい名刺入れを買おうか悩んでいたことを知っていたからこそ、どうしてもそれを選びたかったのだ。
「名刺入れだ。しかも、俺が好きなブランドの一番気になってたデザインのものだ」
もしかしたら、リップサービスかもしれない。けれど、彼の喜ぶ姿を見ているとそうは思えなくて、ホッと息をついた。
レストランを出たあとは、酔い覚ましに徒歩でイルミネーションを楽しんだ。
冬の夜風は冷たいけれど、翔と手を繋いで歩く街は今までで一番綺麗な景色に見えた。こんな風に普通の恋人として触れ合いながら歩ける日が来るなんて、半年前までの私には想像もできなかったのに、今は自然とできるようになっている。
それもこれもすべて、やっぱり彼のおかげだ。
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