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「不況の煽りで長時間労働の会社が増えてるけど、リモートでも安心して働けるようになって、家族や自分のために使える時間を増やしてほしいんだ」
なによりも、あの頃と変わらないものを秘めた彼の双眸に胸が大きく高鳴り、また恋に堕ちてしまう予感がした。
「そんな風に思うようになったのは、志乃のおかげなんだ」
「……私?」
「うん。前々からうっすらとした目標ではあったんだけど、志乃と暮らすようになってもっと志乃との時間が欲しいと思った。それが俺の目標を後押ししてくれた」
「そんなの、私のおかげなんかじゃないよ。ただ、翔がすごいんだよ」
高校時代、翔と夢を語り合った日のことは今でもよく覚えている。彼の夢はあの頃から始まっていた。
記憶に焼きついているその姿は眩しくて、あの日の決意を思い出させてくれた。
(ああ、そっか……。きっと、これが答えなんだ)
私は、翔に見合う人間でいたい。ちゃんと隣で並んで歩ける、自立した女性になりたい。甘えるだけじゃなく、支え合える関係でいたい。
「翔、話があるの」
真剣に切り出した私の顔つきから、彼はなにかを察したようだった。優しい眼差しが私を真っ直ぐ見据えてくる。
翔を見つめ返しながら、ゆっくりと深呼吸をした。
「私……もう一度、美容師として働きたい」
上手くできないかもしれない。また理不尽な目に遭って、環境や自分自身に負けるかもしれない。
それでも、私はやっぱり夢を諦めたくないと思った。
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