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「できるかはわからないし、自信だってあるわけじゃない。翔のおかげでトラウマを乗り越えられたと思えるけど、きっとひとりになったら完璧に平気だとは言えない。なにより、一年近くスタイリストから離れてるから、腕だってきっと落ちてる……」
乗り越えなければいけない壁は、今想像できるものよりももっと多いだろう。
それでも、私は〝やりたい〟と目指してたどりついた場所に、もう一度戻りたい。
そのために、つらくても苦しくても立ち向かえる人間でいたい。
「志乃は、志乃が歩きたい道を歩いていけばいいんだ」
私を見つめたままの翔が、柔和な瞳をさらにたわませる。
「怖くても不安でも、志乃には俺がいる。つらいこともあるかもしれないけど、いつだって一番の味方でいる」
間を置かずして、彼は私の手をそっと握った。
「ずっと叶えたいと思ってた夢を、必死に努力して叶えたんだろ。志乃を傷つけるようなつまらない奴らのせいで、自分の夢を諦めることなんてないんだ」
翔の言葉はいつも、青春の日々のように痛いくらいに真っ直ぐだ。彼自身のようにキラキラとまばゆくて、背中を押してくれる力強さがあって、踏み出す勇気をくれる。
「だから、もう一度頑張れ」
伸びてきた腕が、私の体をそっと抱き寄せる。あの日とまったく同じ言葉をくれた翔は、そのまま力強く抱きしめてくれた。
胸が甘苦しいほどに熱くて、込み上げてくる熱を受け入れながら大きく頷いた。
「うんっ……!」
視界が滲む。不安も恐怖心もあるのに、自信はちっともない。
けれど、彼の体温に包まれる私の意志は固く、迷いは溶けていた。
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