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Bloom 10 七転び八起きも、あなたの傍でなら
『俺さ、将来は自分の手で世界を変えるようなことがしたいんだ』
あ、笑うなよ? と苦笑を漏らした諏訪くんが私を見る。
『すごく壮大な夢だね』
『壮大ってほどでもないよ。別に、世の中から注目されることがしたいわけでも、目立ちたいわけでもないし』
『でも、大きなことをすれば注目を浴びるでしょう?』
『うん、だから大きなことじゃなくていい』
さっきの言葉と結びつかないことに小首を傾げれば、彼がふっと瞳を緩めた。
『世間には認知されなくても、誰かの生活がちょっと豊かになるとか、誰かの笑顔に繋がることになるとか、そういうことでいいんだ。ただ、好きなことをするには組織の末端にいたんじゃ難しいだろうし、小さくてもいいから自分の会社を持ちたい』
どこか照れくさそうな諏訪くんは、『偽善者って思われるかもしれないけど』と自嘲混じりに呟く。
私はすぐに、否定を込めて首を大きく横に振る。すると、彼が面映ゆそうに微笑んだ。
『こんなことを話しても笑われると思って、実は今まで誰にも言ったことがなかったんだけど、香月に話してよかった』
十月の夕日が、喜色を浮かべる諏訪くんを優しく染める。紙の匂いが充満する古い図書室が、なぜかキラキラと輝いて見えた。
『香月は夢とかないの?』
『えっと……』
あるにはある。けれど、私にはきっと向いていない職業だし、彼に比べればちっぽけに思えて言い出しにくい。
『教えてよ』
なんて思っていたのに、笑顔を寄越されると口を開いていた。
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