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『……でも、結局は高校でも全然変われなかったんだけどね』
黙って話を聞いてくれていた諏訪くんは、優しい笑みを零した。
『そんなことないと思うよ。俺は中学のときの香月のことは知らないけど、きっと変わりたいって思った気持ちは今も香月の中にあって、だからこそ香月の夢はその頃から変わってないんだよ』
彼の笑顔が、優しい声音が、心を包み込んでくれる。私だけに向けてくれるそれらが、泣きたくなるくらいに嬉しかった。
『それに、美容師って外見を変えてあげる仕事だろ。だったら、〝変わりたい〟って気持ちで勇気を出して美容室に行った香月には、そういう人たちの心に寄り添えると思うし、むしろ向いてると思う』
キラキラ、キラキラ……まるで夏の海のよう。私には眩しすぎるくらいの真っ直ぐさで、強く優しく背中を押してくれる。
『大丈夫だ。香月ならできるよ』
思ってもみなかった温かい言葉に、胸の奥からは正体のわからない熱が突き上げてきて。このときの私には、泣かないようにするのが精一杯だった。
『だから、頑張れ』
俺も頑張るからさ、と笑った諏訪くんに、大きく二度頷く。
『諏訪くんも頑張ってね』
同じように首を縦に振った彼は、程なくして『あっ!』と声を漏らした。
『そうだ。香月が美容師になったら、俺を――』
秋の夕日に照らされた笑顔が遠のいていく。
その言葉の続きは――。
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