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「あ、おいしい!」
「本当に?」
「うん。生のトマトかな? すごくジューシーだし、具材も色々入ってるね」
ミンチ肉と玉ねぎ以外にも、人参、ピーマン、セロリと具だくさんだ。ケチャップじゃなくて、わざわざ生のトマトでソースを作っているところにこだわりを感じる。
これまでにも、彼の料理は口にしたことがある。ただ、いつもは『ザ・男飯』といったような、丼ものやラーメンばかりだったため、オムレツというのは意外だった。
「なんで急にオムレツを作ろうと思ったの?」
「無性に食べたくなったんだよな。レシピサイトを見ればできると思ったけど、オムライスも作るのが苦手だったのを忘れてた」
肩を竦めた彼に、笑いが込み上げてきた。
クリスマスの今日は、午前中はゆっくり過ごして午後から水族館に行き、夜は翔が予約してくれているディナーを楽しむ予定だ。
「志乃、お願いがあるんだけど」
「どうしたの?」
朝食後にソファでタブレットを見ていた彼は、メールチェックをしていたらしい。ただ、それももう終わったようで、朝食の片付けを済ませた私は傍に行った。
笑顔を向け、翔の要望を待つ。次いで紡がれたのは、予想だにしない言葉だった。
「俺の髪、切ってくれない?」
「えっ……」
「年末にいつものサロンに行くつもりだったけど、できれば志乃に切ってほしいんだ。ほら……高校時代の約束、覚えてる?」
それは、今朝見ていた夢の続き。
あのとき、彼はこう言った。
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