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それからの一ヶ月は、転職活動のために動いた。
専門学校時代の友人に相談したり、自分が魅力を感じるサロンを探したりしつつ面接を受け、二件のサロンから採用の連絡をもらった。
とはいえ、どちらも正社員になるためには試用期間がある。
それに、スタイリストとしてのブランクが一年ほどある私は、最初はアシスタントとして採用されることになる。
その後、それぞれのサロンで規定になっている試験を受けて、無事に合格すればスタイリストデビューできる……という流れだ。
二月最後の金曜日、翔にそれを伝えると、彼は自分のことのように喜んでくれた。
「まずは就職先が決まってよかったな。おめでとう」
「ありがとう」
「それで、志乃の第一希望はどっちなんだ?」
「まだ悩んでるの」
ひとつは、関東圏で二十七店舗も展開している大手サロン。
都内では破格と言えるほどリーズナブルな価格帯なのが特徴で、客層は十代から八十代までと幅広い。トップスタイリストには、有名なコレクションを担当した経験がある人も多いのだとか。
「私、前の職場はスタッフとは上手くいかなかったけど、サロンの雰囲気は好きだったし、お客様の年齢層が幅広かったおかげで経験を積めるのが早かった部分もあると思ってるの。だから、短期間でたくさんの経験を積むにはここかなって」
なにより、私のように五年ほどの経験とスタイリストだった実績があれば、一ヶ月程度の試用期間でスタイリストとして店に立たせてもらえると聞き、大きな魅力を感じた。
恐らく、他店ではこうはいかない。
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