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「でも、その顔は迷ってるんだろ?」
翔は、なんでもお見通しだ。私が悩んでいることを見透かした彼が、「もうひとつの方は?」と訊いてきた。
「もう一軒のサロンは、そことは全然違うんだけどね」
全部で三店舗しかなく、店舗面積も小規模だ。
私が面接を受けた南青山は、ウッド調のインテリアやグリーンが置かれたナチュラルな雰囲気で、二台のシャンプー台を含めても六席しかなかった。
他の店舗も同じだと、面接してくれた南青山店の店長兼オーナーの男性が話していた。店舗の感じやホームページから察するに、アットホームなサロンなんだろう。
「素敵だとは思ったんだけど、経験を積むには時間がかかりそうだし、オーナーからも『半年はアシスタントをする覚悟を持って』って言われたんだ。価格帯も少し高めだから、アットホームだけどラグジュアリーな路線なのかも」
友人の中には、私と同程度の経験を経て転職した子が数人いるけれど、転職先で半年もアシスタントをしたという子はいない。だからこそ、そこが引っ掛かっていた。
「それなら、最初に話したサロンにすればいい。ただ、志乃の中ではなにか惹かれるものがあるから、どっちがいいか悩んでるんだろ」
本当に、翔は私のことをよくわかってくれている。
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