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「実はね、高校時代に通ってたサロンにどこか似てるの」
あのお店はさらに小さかったし、名前も違う。
ただ、面接のときに目にしたアクアリウムが、あのお店のカウンターに置かれていた二匹の熱帯魚を思い出させ、どことなく懐かしさを抱いた。
「その店、もうなくなったんだっけ?」
「うん。私たちが高校を卒業した年の夏前にね」
ホームページはなかったため、夏休みに帰省するまで知らなかった。
お姉さんがサロンの宣伝用に更新していたSNSは、【閉店】が最後の投稿になっていた。今はもうそれも見られないけれど、確か感謝の言葉とともに『新しい道に進みます』と記載されていたから、別の職業に就いたのかもしれない。
あのお姉さんに憧れて美容師を目指したことも伝えられず、三年間も通っていたのに名前も訊けないままだった。
「それなら、両方ともきちんと見学させてもらえば?」
「え? でも、そんなこと……」
「ダメ元でも、とりあえず訊いてみればいいんじゃないか」
戸惑う私に、彼はなんでもないことのように言ってのける。
「これから働く職場だし、もしかしたらずっとそこにいることになるかもしれないんだ。もう一度夢を叶えるための大切な場所になるんだから、積極的になった方がいい」
「うん、そうだよね。明日、両方のサロンに連絡して訊いてみるよ」
大きく頷いて笑った翔が、私の頭を優しく撫でる。そして、頑張れと言うかのように、唇にそっとキスを落とした。
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