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最短でも三ヶ月以上、上手くいかなければそれだけ時間がかかるということだ。
試用期間は三ヶ月とはいえ、アシスタントの期間がどれだけかかるかは人ぞれぞれで、それを苦に辞めた人もいるのだとか。
「うちはやる気がない子や意識が低い子はいらないし、オーナーとしてもスタイリストとしても全力で取り組んでくれる人と働きたい。だから、経験があっても厳しいけど、一生懸命なスタッフは絶対に見捨てないから」
にっこりと微笑まれ、安堵感に似たものを抱く。さっきまでの雰囲気とは一変し、プライドと厳しさの中に優しさを感じた。
どうやら、オーナーの藤岡さんは思ったほど怖い人ではないようだ。
スタイリストになれるまでの工程に対する不安はある。同時に、興味も深まった。
「お疲れ様~」
そんなことを考えていると、明るい声が響いた。
お客様に「いらっしゃいませ」と声をかけつつ、足音がこちらに向かってくる。すぐにバックヤードにやってきたのは、四十代前半くらいの女性だった。
「あなたが面接の子ね」
「そう、香月さん。今ちょうど説明が終わったとこだよ」
「そっか。オーナーの妻で、麻布十番店の店長の藤岡夏です。はじめまして」
差し出された右手を前に、目を真ん丸にする。そんな私を見て、夏さんは不思議そうな顔をした。
「あのっ……! 以前、埼玉でサロンを経営されていませんでしたか? 『サマームーン』って名前のお店で、レジカウンターに二匹の熱帯魚がいて……」
思わず尋ねてしまえば、今度は彼女が瞠目する。私たちを見ていたオーナーも、驚いている様子だった。
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