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「あれ? 震えちゃってるよ」
怖い――。
ただそれだけの感情に支配されていく。
「可愛い~!」
肌に触れる息が恐怖心を煽り、得も言われぬ嫌悪感を連れてくる。
もう大丈夫だと思ったのに、嫌な記憶がフラッシュバックして動悸がする。
「じゃあ、行こうか。悪いようにはしないからさ」
拒絶したいのに、体はまったく動かず、声も出せない。
周囲を行き交う人はたくさんいるはずなのに、きっと私たちのことなんて眼中にないんだろう。
呼吸が上手くできないせいか、それとも恐怖心のせいか、視界が歪んでいった。
「おいっ‼」
刹那、両側を塞いでいた男性の気配が消え、背後に引っ張られた。
そのまま体が返され、優しい温もりに包まれる。
「なにしてるんだよ!」
地を這うような低い声が、頭上から降ってくる。
氷点下の声音なのに、私を守るように回された腕が温かいせいか、不思議と恐怖心はない。
それどころか、さっきまで感じていたはずの恐怖も嫌悪も消えていた。
「なんだよ、連れがいたのかよ! だったら、誘うような態度を取るなよな!」
言い捨てるように遠のく足音を聞きながら、唇を噛みしめる。
一度だってそんな態度を取ったつもりはないのに、どうしてあのときと同じようなことを言われてしまうんだろう。
悔しさと同時に、自分に非がある気がして、やり場のない感情が込み上げてくる。
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