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* * *
目まぐるしい日々の中、七月も半分が過ぎようとしていた。
「うぅ……緊張する……」
豪華絢爛な披露宴会場で顔を強張らせる私に、隣に座る翔が明るく笑った。
「何度も練習したんだから大丈夫だよ。深呼吸して落ち着いて」
彼の声を聞くと安心できたものの、緊張はなかなか消えそうにない。
今日は敦子の結婚式で、さっき披露宴が始まったところ。そんな大切なお祝いの場で、私は友人代表のスピーチを請け負うことになっている。
何度も原稿を書き直し、翔の前で練習してアドバイスをもらい、しっかりと準備を進めてきた。
とはいえ、本番の緊張は想像以上で、高砂で幸せそうに微笑み合うふたりを見つめながら深呼吸を繰り返した。
「ほら、諏訪! 可愛い彼女が困ってるんだから、もっと優しく慰めてやれよ」
そんな私と翔のやり取りに、同じテーブルの川本くんがニヤニヤと口元を緩めている。川本くんはどうやら、私たちのことをからかいたくて仕方ないらしい。
「川本、うるさい。ちょっと黙ってろ」
「志乃はあんたと違って繊細なの!」
「志乃、川本の図太さを分けてもらいなよ」
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