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翔いわく、私の一番最初のお客様になれなかったことが、意外と悔しさとして心にあったらしい。再会する前は諦めていたものの、付き合うようになったことでそんな気持ちが芽生えたのだとか。
「一番最初のお客様は敦子だよ」
当時、私がスタイリストデビューできることを報告すると、有休を使ってまで敦子が来店してくれたのだ。緊張でいっぱいだった私は、十時前に店内に入ってきた彼女を見て心底ホッとできた。
『親友の一生に一度しかないデビューは見ておかなきゃと思って。失敗しても笑い飛ばしてあげるから安心して切ってよ』
そう言ってくれた敦子の明るい笑顔は、今でも鮮明に思い出せる。そのことを翔に打ち明けると、彼から複雑そうな苦笑を返された。
「まさかの赤塚か。俺の一番のライバルは赤塚かもしれないな」
「ふふっ、なにそれ」
「だって、結婚式のときに『志乃と付き合ってるのは諏訪くんだけど、志乃のことを一番理解してるのはまだ私だと思う』って言われたんだよ。正直、『そんなことない』とは言い返したけど、赤塚に負けてるかも」
クスクスと笑いながらも、私が知らないところでそんなやり取りがあったなんてなんだか感動してしまう。彼女はやっぱり、私の一番の親友だ。
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