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低い声で紡がれた囁きには、色香がしっかりとこもっていた。
吐息が触れた耳朶からゾクゾクとしたものが走り抜け、うっかり流されそうになる。
「ダ、ダメッ! そうなったら夕方になるでしょ!」
「ふぅん、志乃はそんなに濃厚なのがご希望ですか?」
「ちがっ……! そうじゃないからね!」
甘ったるくなった空気を変えるように、「お腹空いたね!」と体を離す。翔は楽しげに笑うと、再度私の体を引き寄せた。
「わかったわかった。今はしないから、あと五分だけ抱きしめさせて。ゆっくりできるのは今日までだし、明日からはお互いまた忙しくなるんだからいいだろ?」
私の髪を一撫でして「な?」と瞳をたわませた彼が、私の頬と唇にそっとキスを落とす。それだけで言い包められてしまう私は、なんて簡単なんだろう。
惚れた弱みって、きっとこういうことを言うんだ。
そんなことを考えてはいても心は幸福感で満たされていて、お盆休み最終日は優しい空気に包まれながら終わった――。
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