8083人が本棚に入れています
本棚に追加
「彼ね、志乃ちゃんのデビューが決まった翌日に連絡をくれて、『内緒で予約させていただけますか?』って。事情を訊いたら恋人だって言うから協力しちゃった」
にこにこと笑う彼女と翔に、サプライズを仕掛けられてしまったみたいだ。まだ平静を装えなかったけれど、なんとも彼らしい。
「仕事は大丈夫なの?」
「半休を取ったんだ。タケには呆れられたけど」
肩を竦める翔は、私が思っている以上に〝一番〟にこだわっていたようだ。嬉しいけれど、夏さんに恋人を紹介するのは恥ずかしかった。
「ほら、早くご案内して」
「は、はい……。それでは諏訪様、こちらへどうぞ」
店内に案内して、椅子に座った翔と鏡越しに目が合う。悪戯が成功した少年みたいな顔をした彼は、まるで高校生の頃の〝諏訪くん〟だ。
「今日はどのようにされますか?」
「お任せします」
けれど、私は無邪気さを覗かせた笑顔に弱いのだ。
仕事中だというのにときめいてしまい、そんな自分を叱責しながら「かしこまりました」と微笑んだ――。
最初のコメントを投稿しよう!