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車内から窓の外を見つめながら、脳内で反芻するのは今朝の志乃のこと。
はにかんだようにエンゲージリングを見つめ、幸せそうに微笑む姿はとにかく可愛かった。その破壊力は凄まじく、彼女が仕事じゃなかったら確実にベッドに連れ戻していただろう。
『よう、ミスターヘタレ』
「その呼び方はやめろって言ってるだろ」
昨夜の余韻に浸っていた俺は、それをぶち壊した声に眉を顰めた。
『それが初恋を実らせる手伝いをしてやった親友への態度かよ』
電話口の川本が不満げに言う。その声を聞き流しつつ、「なにか用か?」と尋ねた。
『別に? 香月と仲良くやってるのかと思っただけだよ』
「余計なお世話だ」
『せっかくみんなでお膳立てしてやったのに、仕事にかまけて振られるなよ。お前、香月のことになるとヘタレだからなー』
「ご心配なく。昨日、プロポーズを受けてもらったところだよ」
『はっ⁉」
「あ、悪い。これから人と会うんだ」
『待て! 言い逃げするなよ! そこだけ聞かされたら色々気になるだろ!』
「そのうち話す。じゃあ、またな」
『おい――』
川本の声を遮るように通話を終了させ、すぐさま車から降りた。
目の前のヘアサロンから出てきた明るい髪色の軽薄そうな男性に近寄る。
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