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「平岡圭次郎さんですか?」
「はい?」
俺はふつふつと沸き上がる怒りを隠さず、平岡を見下ろした。
「平岡圭次郎、一月四日生まれ、三十五歳、妻と子どもふたりの四人家族。高校卒業後、都内の美容学校に進学。美容師資格を取り現在のサロンに就職し、この店の店長を務めている」
「なっ……なんなんだよ、お前……」
「香月志乃を知ってるな?」
平岡の顔色が変わり、頬が引き攣った。
「お前が志乃にしたことは証拠を取ってある。お前の素性も調べ上げてるし、今も女性スタッフにセクハラとパワハラを働いてるのも知ってるんだ」
「な、なんの話だよ……!」
「しらばっくれるのなら、別にそれでも構わない。俺は、お前の罪を咎めに来たわけでも謝罪を求めてるわけでもないからな。そんなことをされても、志乃がお前につけられた傷は一生消えないんだ」
自分でも驚くほど静かに、淡々と言葉を吐いていく。
俺が一歩足を踏み出せば、平岡が三歩下がった。もう一歩前に出れば、平岡との距離がグッと縮まった。
「お前がしたことは許さない。志乃に近づけさせる気はないが、万が一そんなことがあれば容赦しない。お前を社会的に消すくらい、こっちは指一本でできるんだ」
温度のない笑みを投げれば、平岡は「ひっ……!」と声を上げた。その様子を見ても怒りは収まらないが、これ以上なにを言ってもムダだと悟って踵を返す。
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