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「……ああ、そうだ。お前の被害に遭ってる女性たちに、優秀な弁護士を紹介しておいた。志乃や彼女たちが受けた傷以上に苦しめばいい」
直後に足を止めて振り返れば、平岡は顔面蒼白状態で立ち尽くしていた。
こんな奴に志乃が傷つけられたなんて、悔しさと怒りでどうにかなりそうだ。
なによりも一番腹立たしいのは、彼女が苦しんでいたことを知らずに過ごしていた自分自身に対してだった。
もし、高校時代に想いを伝えていたら……。そうじゃなくても、もっと早くに志乃と再会できていたら……。ほんの少しでも彼女を支えることができたかもしれない。
どれだけ悔やんでも仕方がないのに、そんな気持ちが消えなくてこれまでとは別の後悔となって心にはびこっていた。
けれど、志乃はもう前を向いている。
だから、夢に向かう彼女の姿を間近で見ている俺が、こんな気持ちでいるわけにはいかないのだ。
それに、被害者たちはもう動き始めているため、遠からず平岡は制裁を受けるはずだ。法の裁きがどこまで下されるかはわからないが、今の地位は失うだろう。
蔑んだ視線で平岡を一瞥し、俺は憎い相手を横目に車に乗り込んだ――。
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