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「でも、就活って思ってたより大変なんだね。美容師のときは、特に就活なんてしなくても就職先が決まったから、まさかこんなに苦戦するとは思わなかったよ。資格を活かせない職を選ぼうとしてるのがいけないのかもしれないけど……」
「香月、なにかあった?」
「え?」
「昔はあんなに美容師になりたがってたし、努力家で真面目な香月ならきっとすごく頑張ったんだろうなって思う。でも、資格を活かせない職ってことは、美容師をするつもりはないってことだろ? 香月がそう思うなら、なにかあったのかなって」
「諏訪くん、買い被りすぎだよ。私、そんなに真面目じゃないし、努力家ならもっと美容師として頑張れたはずだもん」
「でも……さっき、全然上手くあしらえなかったって話をしたとき、香月は『美容師だったときも』って言ったよな?」
自嘲混じりの微笑を漏らせば、諏訪くんが心配げに眉を寄せる。
「……引かないで聞いてくれる?」
職を失った言い訳をしたくて、彼を見つめて問う。
「ああ、絶対に引かない。約束するよ」
力強く頷いてくれた諏訪くんは、あの頃のままの優しさを見せてくれた。私はすっかりかっこ悪くなってしまったけれど、せめて少しだけ言い訳をさせてほしい。
「私ね……上司や同僚と上手くいかなくて、辞めたの……。その、パワハラとかセクハラ……されちゃって……」
語尾が小さくなっていく私に、彼は目を大きく見開いた――。
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