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ところが、翌年、またしても事態が悪い方へと転がってしまう。
店長だった女性スタイリストが寿退職し、平岡さんが新店長として配属されたのだ。
そこからの一年は、地獄のようだった。
当時のフラッシュバックなのか、彼が配属されて一週間もしないうちにひどい動悸に悩まされ、一ヶ月後には単純なミスをするようになった。
お客様と話していても内容が記憶できず、次第に小さな失敗が増えていく。
このままではいけないと思うのに、ミスをするたびに閉店後に平岡さんからバックヤードに呼び出され、全身に纏わりつくような視線の中で不要な接触をされる。
秋になる頃には欠勤するようになり、当然ながら指名も減っていった。悔しくて悲しいのに、気力も体力も湧いてこない。
心が折れたのを感じて退職を申し出たところ、『今辞められたら俺の査定に響く』と怒鳴られ、『俺に触られても本気で嫌がってなかったよな』と下品な笑みを返された。
それが大きなきっかけとなって結局は美容師を続けることはできず、最後には心療内科で診断書を取って病休を申請し、三月いっぱいでようやく退職したのだ――。
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