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Bloom 1 縁は異なもの味なもの……?
春の気配が薄らいだ、五月の第三月曜日の昼下がり。
「うーん……今どき、資格もないんじゃねぇ……」
メガネをかけた五十代前半くらいの男性が、眉間の皺をいっそう深くした。
「あ、いえ……美容師資格なら持ってます」
控えめながらも主張すれば、ふっと鼻で笑われてしまう。さっきからどうにも蔑まれている気がするのは、きっと思い違いのはずだ。
「だったら、事務職じゃなくて、美容師の資格が活かせるところに絞れば? 今は美容系の職って多いよねぇ」
微妙に伸ばされる語尾に、バカにされている気がしてならない。気のせい、気のせい……と自分自身に言い聞かせて早十分、気分はどんどん降下していく。
「そうなんですけど、できれば別の職種も経験してみたくて……。美容師はサービス業で大変ですし……」
本音は伏せつつも、サービス業以外がいいと暗に込める。すると、男性は呆れ混じりの笑みでため息を漏らした。
「別にどの職種だって大変だと思うけどねぇ。とりあえず、資格がなくて未経験者でも募集してるところ……この三件だねぇ。選り好みもできないだろうしねぇ」
貼りつけていた笑顔は、すっかり消えてしまっている。
お礼を言う声にも力がなくて、泣きたい気持ちでハローワークを後にした。
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