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「香月さえよければ、先に家を用意するよ。色々と準備もしたいだろうから、仕事は来月からで大丈夫だ。もし考える時間が欲しいなら数日待つよ」
諏訪くんは、決して無理強いはしなかった。
そういえば、昔からそうだった。
人気者なのにどこか物静かでミステリアスなところがあって、相手の気持ちを汲むのが上手い人だと思ったことがある。それに、他の男子たちのように下手にバカ騒ぎをしたり変な視線を向けたり……なんてこともなかった。
私の周囲にいる男子の中で、彼だけはみんなとは違った。
「……本当にいいの?」
「ああ、もちろん。無理ならこんな提案はしないよ」
大きく頷いて微笑んだ諏訪くんは、相変わらずしゃがんだまま私を見つめている。
彼がその姿勢になったときからずっと不自然に思っていたけれど、こうすることで私に威圧感や恐怖心を抱かせないように配慮してくれているのだ……と気づいた。
私が諏訪くんだけは怖いと思ったことがないのは、彼のこういうところが理由のひとつなのかもしれない。
「あの、じゃあ……ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
「うん、こちらこそ」
立ち上がった諏訪くんが、私との距離を詰める。それから、骨張った手を差し出してきた。
「……あ、こういうのは苦手だったよな」
ハッとしたように手を引っ込めた彼に、慌てて首を横に振る。
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