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「う、ううん! 平気だよ!」
高校時代は、男子と触れ合うのが怖かった。今でも握手程度のことでも平気なわけじゃないし、男性との不要な接触は極力避けている。
けれど、相手が諏訪くんだと思うと、考えるよりも早く口をついていた。
「そっか。じゃあ、よろしく」
「よろしくお願いします」
そっと出された右手を、おずおずと伸ばした手で控えめに握る。本音を言えば、もしかしたら嫌悪感を抱くかもしれないと考えたけれど、幸いにも平気だった。
ただ、緊張のせいか急にドキドキしてしまって、彼の目を真っ直ぐ見ることができなかった。
「明日、時間はある? 都合がつくなら、寮に案内するよ」
「じゃあ、お願いしてもいい? できるだけ早く見ておきたいし」
「早々に引っ越したいなら、明日にでも入居できるよ」
「えっ⁉」
さすがに、明日引っ越すのは考えていなかった。
「荷物は徐々に運び込む形でもいいけど、仕事が始まる前に新居での生活に慣れておいた方がよくないか? 赤塚だって荷造りもあるだろうし」
とはいえ、諏訪くんの話には共感できた。仕事が始まれば余裕があるかはわからないし、早めに入居できれば周囲を散策したり部屋をゆっくり整えたりできる。
なにより、私がずっと居候させてもらっているせいで、敦子は気が休まっていないかもしれない。いくら仲がよくても、1LDKの部屋に他人が住んでいるんだから。
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