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「いい匂いだな」
「あ、うん。ちょうどできたところなんだけど、もしよかったら一緒に食べない?」
「え?」
「もちろん、無理にとは言わないんだけどっ……! お腹空いてないとか、苦手なものとかあるかもしれないし……」
目を丸くした彼を前に、慌てて逃げ道を作る。断られる可能性を考えていなかったことに気づいて、今さらためらってしまった。
「いや、嬉しいよ。実はお腹ペコペコなんだ」
「本当? あ、でも諏訪くんの口に合うかはわからないんだけど」
「絶対うまいよ。香月、高校のときは自分で弁当作ってただろ? いつもうまそうだなって思ってたから楽しみだ」
諏訪くんが高校時代のことを覚えてくれていたことも、そんな風に思ってくれていたことも、とても嬉しい。けれど、あまりに素直に言われてドキドキした。
それに、断られなかったことにはホッとしたものの、ハードルが上がった気がして別の心配事ができてしまう。
もっとも、料理は完成しているし、自分から誘った以上は今さらなかったことにはできない。手早くテーブルにお皿を並べ、彼と向かい合って座った。
「じゃあ、いただきます」
瞳を緩めた諏訪くんが両手を合わせ、お箸でハンバーグを掴んで口に運ぶ。固唾を飲むような思いで様子を見守っていると、直後に彼の目が見開かれた。
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